世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者であり歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ教授が、2020年1月にベルギーで開催されたニューズウィーク主催のイベントで、参加者の質問に答えました。
そのときに、アントワープ大学の女子学生からこんな質問がありました。「私はいま大学でフランス語とスペイン語を学んでいます。今後、AIが人間より優れた翻訳することができるなら、私がやっていることに経済的価値はあるのでしょうか。」これに対してハラリ氏は以下のように答えました。
「狭いスキルに焦点を当てて、それにすべての希望を託すのは危険」
言語を学ぶのは仕事を得るためだけでなく、見識や視野を広げるためでもありますよね。でも、仕事という点でいうと、翻訳だけでなく、20年以内になくなる可能性がある仕事はたくさんあります。 20年後の雇用市場がどうなっているかは誰にもわかりません。確かなのは雇用市場が非常に変わりやすく不安定なものになるということです。1つの仕事を一生続けるという考えは時代遅れになるでしょう。ですから、私からのアドバイスは、狭いスキルに焦点を当てて、それにすべての希望を託すのは危険だということです。例えば、人間の言語を学ぶとか、コンピュータ言語でコードを書くとか、トラックを運転するとか、そういうことは20~30年後には自動化されているかもしれません。
「21世紀で最も重要なスキルは、常に新しいことを学び続けること」
21世紀で最も重要なスキルは、常に新しいことを学び続けることです。人々は一生に何度も自分自身を作り変えていくことが必要になります。そのためには、生涯を通じて学ぶ能力に加え、こころの知能指数(EQ)や精神的な柔軟性が必要です。こうした能力を教えるのは、知識を教えるよりはるかに難しいのです。だからいまから教育を始める必要があります。
「変化に対応できる国とできない国の極端な格差が全世界に影響を及ぼす」
比較的豊かな国は人々の再教育に投資し、変化に対応できるよう支援できるでしょう。しかし、それができない国では多くの人々が取り残されることになります。AI革命の恩恵を受ける国とそうでない国の間に生じる極端な格差は、やがて全世界に影響を及ぼすことになります。
***
専門性をもつことを否定しているのではなく、自分のスキルが時代遅れになることを恐れない、新しいことを学び続けるスキルとメンタリティの大切さを強調しています。私が進路や就職先を決めたとき、「一生食べていくことに困らない仕事やスキルって何かな」と考えすぎて、選択肢を狭めてしまったことを反省しています。一生かけてその時々に必要な知識やスキルを積み上げていくことを前提としていれば、もう少し違う選択をしたでしょう。
ハラリ氏の話をきくたびに思うのは、問題の存在や深刻さから決して目をそむけないこと、同時に悲観的にならず現実的な可能性と解決しようとする姿勢です。自分の力がいかに小さくて無力だと感じても、逃げずにできることをやろうという決意を新たにさせてくれます。
コメント